ニュースの概要
北海道の職員が、就職活動中の学生に対して「かわいい」といった内容のLINEを何度も送っていたとして、就活セクハラにあたる可能性が報じられた。学生側は採用に関わる立場の相手から連絡を受け、断りにくい状況にあったとみられる。自治体は事実関係の確認を進めているという。就職活動では、学生は評価される側、職員は評価に影響しうる側という構図が生まれやすい。たとえ本人に悪意がなくても、受け手が拒否しづらければ問題になりうる。今回の件は、一個人の振る舞いにとどまらず、組織の採用の仕組みそのものを問い直す事例といえる。
引用元: 北海道職員が就活セクハラか 学生に「かわいい」など何度もLINE(毎日新聞)
分析・見解
「かわいい」の一言が重くなる力関係の構造
問題の核心は、言葉そのものより、送り手と受け手の立場の差にある。同じ「かわいいね」でも、友人同士なら軽口で済む。しかし、相手が自分の就職に関わるかもしれない公務員や企業の社員なら話は変わる。断れば不利になるのではないか。そう考えた学生は、既読を付け、返信し、時には会う約束にも応じてしまう。
法的にも、2020年施行の改正法令で、就活生などの求職者に対するセクハラへの対応は、事業主の努力義務として位置づけられた。さらに2026年にかけて、防止策を求める流れが強まっている。
職員個人の問題で片付けてはいけない理由
報道を見ると、つい「問題のある職員が一人いた」という話で終わらせたくなる。だが、似た事例は民間でも繰り返されてきた。2019年には大手ゼネコンの社員が、OB訪問で知り合った女子学生に対する強制性交で逮捕された。ほかにも、就活アプリや面談を通じた不適切な接触が各地で明るみに出ている。
共通するのは、採用に関わる社員が個人の連絡先で学生とやり取りできてしまう点である。会社のメールや専用ツールを通さず、私的なLINEで連絡できる。この「抜け道」がある限り、組織はやり取りを把握できない。個人の資質を責めるだけでは、同じ穴は塞がらない。
見落とされがちな学生側の沈黙という損失
独自の視点として強調したいのは、被害が表に出る前の段階にも損失がある点だ。厚生労働省の調査では、就活生の約3人に1人が何らかのセクハラ被害を経験したとされる。ところが、その多くは相談もしない。大学のキャリアセンターにも届かない。
理由は単純で、相談すれば選考に響くと感じるからだ。この沈黙は、志望先への信頼を静かに削る。被害に遭わなかった学生でも、噂を聞けば応募をやめるだろう。つまり、ハラスメントは被害者だけでなく、採用ブランドと応募者数にも打撃を与える。
防止は禁止ではなく、窓口を一本化する設計から
今後の方向は、学生との接触を全面禁止にする形ではないだろう。それでは良質なOB・OG訪問まで消えてしまう。現実的なのは、連絡手段を会社や自治体が管理する窓口に集約し、面談は複数人か公的な場所で行い、記録を残すというルール作りである。
加えて、断っても不利にならないと学生に明示することが要る。この一文があるだけで、学生の心理的な負担は大きく下がる。仕組みで守る発想が、これからの標準になるはずだ。
ビジネスへの影響
採用担当者が今週中に見直すべき三つの運用
まず、学生との連絡手段を確認してほしい。社員が私的なLINEで学生とやり取りしていないか、実態を調べる。禁止まで踏み込めなくても、業務で使う場合は会社の連絡先を使うよう通知するだけで効果がある。
次に、OB・OG訪問の場所と人数を決める。個室の飲食店での一対一は避け、オフィスやオンライン面談を基本にする。最後に、面談後に簡単な報告書を残す。誰が誰に会い、何を話したかを記録すれば、後で問題が起きても事実を確認できる。
苦情窓口と周知が信頼を左右する
窓口を作っても、学生が知らなければ意味がない。募集要項や会社説明会の資料に、相談先と「相談しても選考に影響しない」旨を明記しよう。窓口は人事部門だけでなく、外部の専門機関を併用すると安心感が増す。
対応が遅れた場合の損失も考えたい。報道が出れば、応募者の減少だけでなく、取引先や既存社員の信頼にも響く。調査費用や再発防止の研修費を含めると、事前の仕組みづくりに数十万円かけるほうが、事後対応よりはるかに安上がりである。
管理職の研修では具体的な場面を使う
研修は法律の説明だけでは身につかない。「学生から返信が来たが、食事に誘ってよいか」「容姿をほめるのは失礼か」といった場面を題材に、判断を話し合う形が望ましい。評価する側が無自覚に力を持つことを、全員で確認する場にしてほしい。
